羽ばたきロコモーション 海鳥E |
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2021年7月15日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 ウミガメの様な水中羽ばたき型の遊泳ロコモーションを示す各種の動物を引き続き見て行きましょう。 以下本コラム作成の為の参考サイト:https://en.wikipedia.org/wiki/Sulidaehttps://ja.wikipedia.org/wiki/カツオドリ科https://en.wikipedia.org/wiki/Brown_boobyhttps://ja.wikipedia.org/wiki/カツオドリhttps://en.wikipedia.org/wiki/Guanohttps://ja.wikipedia.org/wiki/グアノhttps://en.wikipedia.org/wiki/Cape_gannethttps://ja.wikipedia.org/wiki/ケープシロカツオドリhttps://ja.wikipedia.org/wiki/シロカツオドリhttps://en.wikipedia.org/wiki/Northern_gannethttps://en.wikipedia.org/wiki/Blue-footed_boobyhttps://ja.wikipedia.org/wiki/アオアシカツオドリ |
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カツオドリ gannet エトピリカのロコモーションの項 https://www.kensvettokyo.net/column/202106/20210625/ にてもチラと触れましたが、ウミスズメ科とは別の科に属し、潜水動作を活発に行うトリとして、今回はカツオドリの仲間をご紹介しましょう。 カツオドリの名は、イワシの大群を追ってきたカツオの居場所を知らせてくれるトリとして猟師が命名したことに由来しますが、実はイワシの群れを追って飛翔するトリは狭義のカツオドリだけではなくミズナギドリなどの他のトリの仲間も含まれます。 https://ja.wikisource.org/wiki/ソーラン節ソーラン節作者:北海道民謡著作権者:不明(北海道民謡、著作権保護期間満了)引用:ソーラン節, https://ja.wikisource.org/w/index.php?title=%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%B3%E7%AF%80&oldid=107315 (2021年7月18日最終訪問).7番まである歌詞の内、以下5つにカモメのことが歌われています。ヤーレン ソーラン ソーラン ソーラン ソーラン ソーラン<にしん来たかと 鴎に問えば わたしゃ立つ鳥 波に聞け>チョイ ヤサエ エンヤンサーノ ドッコイショ ア ドッコイショ ドッコイショ<>内が、以下に置き換わります:<沖の鴎に 潮どき問えば わたしゃ立つ鳥 波に聞け><躍る銀鱗 鴎の唄に お浜大漁の 陽がのぼる><沖の鴎が 物言うならば たより聞いたり 聞かせたり><沖の鴎の 啼く声聞けば 船乗り稼業は やめられぬ> ソーラン節は日本海域のニシン漁を歌ったものですが、日本周辺の亜熱帯域に棲息する種名 カツオドリ Brown Booby Sula leucogasterが混じっていたとは考えられず、鳴き声を立てる鴎ということでウミネコなどかも知れませんね。まぁ、カツオドリと同様に、漁の目印となって呉れる生物学的指標として人間の役に立っている訳です。ヒトと動物の関係性を表す一つの事象として面白いと思います。 カツオドリの仲間 (ペリカン目、或いはカツオドリ目カツオドリ科)は、全長 60-85cm、翼開張 130-150 cm、体重1kg程度であり、強大な翼を持ち、4本の足指の間には水かきを持ちます。クチバシは長く尖り、基部が目立つ色彩を呈し、ノコギリ様のギザギザを備えます。上クチバシの先端は軽度に下に向けて曲がり、また海面に突入時に水の侵入を防止する為に、鼻孔は外に向かって直接に開きません。目は前方に位置し、広い空間を立体視出来る仕組みを備えています。魚類や軟体動物を食べますが、魚影を見つけると、羽ばたいて空中にホバリングし、上空から急降下して潜水して捕獲します。写真画像を見ると、尖ったクチバシとそれに続く突起物の無いヌメッとした頭部は、海水に突入する際の抵抗を低減するに大いに役立つ様に見えます。熱帯、亜熱帯域に棲息する種もいれば温帯域から寒冷海域に棲息する種類もあります。英名 gannet は、古語の ghans に由来しますが、これは goose ガチョウと同系の言葉です。コロニーを作り地表に降りている カツオドリを見ると、遠目には ガチョウの体型に似て見えなくもありません。 典型的な ウミドリであり、繁殖期に大規模なコロニーを作る時以外は地表に立ち寄りません。樹上や断崖等に巣を作り1回に1-4個(多くの種では1個)の卵を産みますが、雛同士が殺し合う習性を持つとされ、多くの種では1羽の雛しか育ちません。 長年の繁殖行動に拠り、島嶼や崖の近辺などに、カツオドリを含む海鳥の死骸・糞・エサの魚・卵の殻などが、数千年から数万年ほどの長期間堆積して化石化し、これはグアノと呼ばれ、窒素源としての肥料、或いはリンを得る為に嘗ては大量に採掘されましたが、現在ではいずこもほぼ資源としては枯渇しています。 |
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カツオドリの水中ロコモーション 水中に潜水するトリには、これまでご紹介してきたウミスズメの仲間の様に、海面にぷかぷか浮かび、おもむろに海面に頭を突っ込んで倒立し、水中へと潜水動作を開始する方法もあれば、カワセミの様に水中の小魚を確認し、それをめがけて空中から急降下して一瞬の内に餌を捕獲し、すぐにUターンして水を蹴って飛翔する方法を取るものもいます。後のコラムでご紹介しますが、ペンギンは飛翔自体が出来ませんので、氷の崖からダイビングするか、海面に浮かんでからダイビングするか、になります。 カツオドリの仲間は、矢の様に垂直急降下して或る程度の深さに潜水し、そこから羽ばたき、そして足で水を押して水平移動する潜水法を示します。海上を水平飛翔し、魚影を認めると、その上空で羽ばたき静止(ホバリング)し、狙いを付けると高速に海面に向かい羽ばたきますが、没入する直前で翼を畳み、細長い弾丸様に姿になります。時速100kmを超える速度で急降下して潜水する (急降下式潜水 plunge-dive) しますが、丸で矢が海面に降り注ぐ様に見え、その姿には驚嘆させられます。この様な急降下方式は潜る深さを稼ぐのに効果的ですが、水深10m程度までには一気に潜水可能です。これは、高い運動エネルギー状態のままに一気に潜水深度と遊泳速度を稼ぐ作戦ですが、翼と足のヒレを使っての潜水遊泳力を補足する方法と考える事も出来るでしょう。まぁ、水中遊泳の勢い付けですね。水中で羽ばたきは行うものの、ウミスズメやウミガラスなどに比較すると、1回毎の羽ばたきに力を込めて遅いストロークで飛翔し、この時に体幹が背腹にひしゃげて揺れ動く場面も観察されます。<余裕>を持って水中飛翔を楽しむ姿ではありません。翼は半分程度に折りたたんで雨傘をすぼませた感じがします。翼の上腕部に力を掛け、構造的に水中ではぶよぶよと撓る前腕部は進行方向に出来るだけ平行に配列して水の抵抗を軽減する肢位なのでしょう。潜水時に水かきのある足を利用しこちらからも前方推進力を得ていることが明確に分かります。 因みに、アオアシカツオドリ Blue-footed_booby Sula nebouxii (中央アメリカ西岸、ガラパゴス諸島に棲息、種名カツオドリ Brown booby Sula leucogasterに近縁)が地上を歩行する動画では、身体の割には大きな足を地面に左右交互にぺたぺた着けながら、身体をヨタヨタと左右に振り不器用に歩きます。ヒトが潜水用の足ヒレを履きながら地上を歩く姿を連想させられます。潜水時の推進力を得るためにその様な足のサイズと形になったものと思われますが、カツオドリは、地上歩行性の重要性を低下させ、空中飛翔と海中飛翔の2本建てに生きる方向に進化しているトリであることが判ります。 カツオドリは左右幅の大きな強大な翼を保有し、強力な空中飛翔を行います。空中での羽ばたき無しの滑空も可能とします。詰まりは、空中飛翔の完成度が高いトリと言えますが、その分、翼の幅が大きくは無く、滑空は出来ずにストローク数を上げて空中飛翔するウミスズメなどに比較すると、水中飛翔はあまり上手くは無いトリだと言えそうです。 |
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