羽ばたきロコモーション 海鳥G |
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2021年7月25日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。その第47回目です。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 ウミガメの様な水中羽ばたき型の遊泳ロコモーションを示す各種の動物を引き続き見て行きましょう。 エトピリカのロコモーションの項 https://www.kensvettokyo.net/column/202106/20210625/ にてもチラと触れましたが、ウミスズメ科とは別の科に属し、潜水動作を活発に行うトリとして、ウの仲間を引き続きご紹介しましょう。 以下本コラム作成の為の参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/ウ科https://en.wikipedia.org/wiki/Cormoranthttps://en.wikipedia.org/wiki/Great_cormoranthttps://ja.wikipedia.org/wiki/カワウhttps://en.wikipedia.org/wiki/Japanese_cormoranthttps://ja.wikipedia.org/wiki/ウミウhttps://en.wikipedia.org/wiki/Flightless_cormoranthttps://ja.wikipedia.org/wiki/ガラパゴスコバネウ |
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ウの水中ロコモーション 鵜飼いのウ、即ちウミウが潜水する際には、ゆっくりと首を水面下に突っ込んでそのまま潜水する場合も有りますが、カラダを一度水面上で軽くジャンプさせてから体幹を腹方に屈し、クチバシから真っ逆さまに没入する方法を採るのが一般的です。これは少しでも運動エネルギーを増して勢いを付けて潜水する為である他、潜水に好適な姿勢を整えるとの意味もあるでしょう。 潜水中は、翼を畳んだ状態で2本足を同時に或いは左右交互にパドリングして推進力を得ますが、翼で軽く羽ばたきを行い推進力の足しとする例も報告されています。しかしながら、院長も複数のウの潜水動画を確認しましたが、翼を利用する例は全く見ず、全て足のみで推進力を得ていました。と言う次第で、ウの水中遊泳方式は足だけで馬力を得ると考えて良いと思います。翼を使いませんので、舵取りは足の動き、また首の動きを利用している様に見えます。左右の足で同時にパドリングすれば体幹を左右に揺れ動かす力成分も打ち消し合い、まっすぐに進む事が出来ます。長い首を背腹方向に屈伸する動作(S字型のくねらせ)も観察されますが、ペダリングする際のリズムメーカーとして踏ん張る力を入れる事が出来るのでしょう。水深45m迄潜ったとの記録が有ります。水中では獲物の魚を求め、高速かつ巧みな舵取りで進み、捉えた獲物を水中でそのまま呑み込む場合もあれば、咥えたまま水面に浮上し、その場で丸呑みするシーンも観察されます。 |
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考えて見れば、水中で翼を折りたたんで身体の流線型を保ち、足でペダリングして推進力を得る方法−魚雷に類似−も大きな合理性があります。翼を利用すると水の抵抗を増大し、同時に構造力学的に弱い前腕部の揺れ動きを発生させますので、全体としての馬力は増大できても、ウ型の潜水に比べるとエネルギー効率的には落ちる可能性があります。また実際のところ、空中を飛翔するに必須の翼を傷める危険性もある筈です。おそらく、ウの祖先型は水面を足でパドリングして漕ぎ進める力が強大で有り、水中で翼を利用するのではなく、水面を浮かんでいる翼を畳んだままの姿で潜水に習熟する方向に進化したのでしょう。カツオドリ科とウ科は系統発生的にはだいぶ近い仲間同士なのですが、潜水して魚を捕る方向に共通して進化はしていますが、水中遊泳時の翼利用の有無、水中への突入の有無など行動特性を大きく異にしています。共通祖先からは、<ちょっとした>切っ掛けで別々の道を歩んだ訳ですが、機能形態的な要因のみならず、中枢神経系に拠る運動制御性自体に別の進化を生じ、それがロコモーション上の大きな違いを生み出した可能性はありそうです。 ウの仲間は潜水後に、地表で陽光下で翼を広げでじっとしている光景が良く観察されます。ウは翼に防水性を持たせるための分泌腺が貧弱であり、これゆえに、翼に水が沁み通ってしまう為にこのような姿勢で乾燥させるとの説が唱えられています。皮膚に接近した層は空気層を保持できるが、それより表層には水が沁み通るとの説も提出されていますが、実際のウで実験すればすぐに片が付く議論だと感じます。この動作はガラパゴスの飛べないウであるガラパゴスコバネウにも観察されますが、示さない種類のウも存在します。体温調整に役立つ、消化の為、魚の存在を示す、など様々の説も提出されていますが、カワウでの詳細な研究はこの動作が確実に翼を乾かすためのであることを示しています。ガラパゴスに棲息するウミイグアナは冷たい海中に潜水して海藻を食べるのですが、岡に上がってからは冷えたカラダを陽光で温める為に岩場でじっとしています。しかし、恒温動物且つ断熱性高い羽毛で覆われたウが潜水後に体温を陽光で回復させると考えるのは的外れに思えます。 |
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