羽ばたきロコモーション 海鳥I |
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2021年8月5日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。その第47回目です。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 ウミガメの様な水中羽ばたき型の遊泳ロコモーションを示す各種の動物を引き続き見て行きましょう。今回は飛べないウであるガラハゴスコバネウのロコモーションついて見て行きましょう。 以下本コラム作成の為の参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/ウ科https://en.wikipedia.org/wiki/Cormoranthttps://en.wikipedia.org/wiki/Anhingahttps://ja.wikipedia.org/wiki/アメリカヘビウhttps://en.wikipedia.org/wiki/Heterochrony |
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ガラパゴスコバネウのロコモーション web 上に投稿されるガラハゴスコバネウの動画の本数は数多く、これは本種が世間から可なりの関心を持って注目されていることを意味します。潜水時の動画−ガラパゴスの冷たい海流の中で撮影するのは容易ではなさそうです−の本数はあまり多くはありませんが、それらを見ると本種の潜水遊泳の動作は、他のウのそれと比較して特に変わっているところが無いことが分かります。実際、基本的な潜水形態は<拍子抜けするほど>同じです・・・。 翼は体幹の背外側にピタリと貼り付け、足をパドリングして推進力を得ています。只、後肢が足(=かかとから先)の部分を含め、大きく、太くて頑丈そうには見えます。海流の速い海中で潜水し、かつまた、水面に浮上してもそこから空中を飛翔して自分の営巣地に戻る術がありませんので、兎にも角にも、強大な推進力が無いと生存には非常に不利となるでしょう。これはボディサイズが大型化したことに拠る、潜水時の抵抗性に打つ勝ち、また体重を支えて地上歩行性を維持する為にも必要な改変と言える筈です。海面に浮かんでいる時は左右交互にパドリングして進みますが、潜水時には左右対称的に利用してまっしぐらに海底へと潜ります。これは強力な推進力を得ると同時に体幹の左右の揺れを抑制する点で有利であり、ウミガメが左右対称的に<羽ばたく>のと同様でしょう。潜水時には尾羽を水平に広げる場面が観察されますが、これは体幹の上下方向の揺れを低減し、また上下方向への舵取りに用立てている様に見えます。ウ科に一番近い仲間にヘビウ科のトリが居ますが、いずれも長大な尾翼を持って居ます。ヘビウも潜水して魚を捕獲しますが、この時に左右交互に後肢を利用してパドリングしますが体幹の振れがなく非常に安定して前進します。尾羽は、上下動を抑制して安定させる航空機の水平尾翼同様の機能を少なくとも果たす様に見えますが、ウの仲間の尾羽を含め、機能的な比較解析を進めると面白ろそうに見えます。 |
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アロメトリーとヘテロクロニー ガラハゴスコバネウはウの仲間での最大種ですが、ボディサイズの大型化は潜水中に体熱が奪われぬようにする為にも適応的と考えられます。尤も、仮に歯抜けした様な翼ではなく、<まともな>翼が体幹をカバーしていた方が断熱面で損はしない筈ですが、体幹を small feather と down (綿毛)が厚く覆い空気の断熱層を形成しますので、その面で不足は無いのでしょう。まぁ、空中飛翔性を放擲したことがボディサイズ増大の制限を取り払い大型化を可能にしたのでしょう。アロメトリー (相対成長) の概念から、ボディサイズが大きくなると身体の各部位のバランスがどの様に変化するのか、変化すべきなのかを考える機能形態学な解析は大変面白いのですが、ガラハゴスコバネウの場合は脚の比率が大きくなった訳ですね。 因みにアロメトリーの考え方に関連する進化用語に heterochrony ヘテロクロニー (異時性)なるもの − 一般の方でこれら2つの用語をご存じの方は殆ど居られないでしょう − があり、これは、進化の過程に於いて、祖先型や他の器官と比較すると、ある器官の個体発達中の発現、比率或いは発達過程に要する時間などが異なっていることを示す概念になります。これは当該の生き物のサイズ、形態、器官の有無や生理的特徴の違いにも繋り、分かり易く言えば、遺伝子発現の時間、期間、規模により身体がデフォルメを受けて祖先などとは異なった生き物に変貌するとの概念です。考えて見れば、これもどうも生物の進化に於いては当たり前過ぎる機構の1つでもありますが、 Ernst Haeckel が 1875 にこの概念を提唱した当時は遺伝学の発達無く、遺伝学の進歩に拠りこの機構が解明されつつありますが、院長としてはこの概念を特に強調して語るのは時代掛かったことの様に感じられてしまいます。只の形態の比較に留まってしまい、その先の解明に進まない作文で終わって仕舞う研究例は院長は少なからず見ています。尤も、この様な仕事自体は形態の記載を本業、骨幹とする形態学なる学問に於いては何らやましいところは無く正当な学究行為ですが。各種の異なる形態の魚を網目に乗せ、どこが発達或いはどこが歪んでいる、との有名な比較図を目にされた方々も多いのではと思います。厳しいことを言いますが、単に形を比較してグラフの類いを描いたところで、それは調べ物、勉強に過ぎず、形態を決定するより深い機構を解明する、或いは、思いつきレベルでは無い進化仮説を構築するので無ければ生物学的な価値は高くないだろうと院長は考えます。対するアロメトリーの概念は、形態学に於いては機能形態的なメカニカルな比較を根拠にして最終的には検定され得るものですので、実質的な重要性は別として、比較機能形態学に於いては、これに触れずに進む事は出来ず、この先も生き残る概念だろうとは思います。 さて、ではガラハゴスコバネウの翼が<縮んだ>事は、翼を発現させる責任遺伝子の<作用が弱かった>からと単純に考えて良いものなのでしょうか?次回コラムではこの問題に迫って行きます。 |
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