羽ばたきロコモーション 海鳥15 |
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2021年9月1日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 ウミガメの様な水中羽ばたき型の遊泳ロコモーションを示す各種の動物を引き続き見て行きましょう。カモの仲間の続きですが、ぼちぼちロコモーションの話に入りましょう。 以下本コラム作成の為の参考サイト:https://en.wikipedia.org/wiki/Duckhttps://ja.wikipedia.org/wiki/カモhttps://en.wikipedia.org/wiki/Mallardhttps://ja.wikipedia.org/wiki/マガモhttps://en.wikipedia.org/wiki/Domestic_duckhttps://ja.wikipedia.org/wiki/アヒルhttps://en.wikipedia.org/wiki/Tufted_duckhttps://ja.wikipedia.org/wiki/キンクロハジロhttps://en.wikipedia.org/wiki/Swanhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ハクチョウ属https://en.wikipedia.org/wiki/Little_grebehttps://ja.wikipedia.org/wiki/カイツブリ |
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カモの水中ロコモーション 冬期に上野の不忍池−古江戸湾のどん詰まりの生き残り−に飛来する各種のカモを観察していると、オナガガモが体幹を直立させて身体の前半分を水没させて餌を採るシーンが普通に観察されます。尖った尾羽を上に突き立てて<垂直半分潜水>を行う訳ですが、マガモはどうかと言うと、そこまでの明確な<垂直半分潜水>は行わない様に見えます。いずれにしても、この様な方法で川底或いは湖底にクチバシが届く、水深の浅い場所で無いと採餌は困難になりそうです。ハクチョウは長い首を利用可能な分だけより水深の深い場所でも餌が採れますが、ハクチョウの首が長いのも無用に長い訳では無く理由があることが改めて理解出来ます。jまぁ、いずれも潜水は出来ませんので、小魚を捕獲して食べるのも得意では無いでしょう。浅場で植物を食べるのがメインと考えて良さそうです。院長の小学校ではアヒルが飼育されていましたが、近くの溝で玉網で捕獲した鮒−当時は農薬の大量消費時代以前であり、都区内でも<その辺>の用水路や溝を掬うと鮒ややドジョウ、ヤゴなどがわんさか捕獲出来る良い時代でした−を与えると喜んで食べました。アヒル自身では俊敏な動きをする魚を水面から首を突っ込んで捕獲するのは得意そうには見えませんでした。 これらのトリに対し、北極圏には氷の穴から寒冷な海中に羽ばたいて潜り、10m 下の海底にびっしりと固着するムール貝を捕食するカモが存在します。この様な氷に閉ざされた場所では餌は海面下にしか有りませんのでダイビングする以外の生存の道は無く、推進力を得るために羽ばたき動作を行うものと考えられます。帰路に海面に向かって浮上する際には羽ばたきも脚でのパドリングも行わず、大きな浮力が作用していることが分かります。身体の中に空気が多く詰まっているのでしょう。これ故に水底に達するためには翼を利用して懸命に羽ばたく必要があるとも言えそうです。但し、この羽ばたき動作自体が稚拙に見え、また羽ばたきの反動としての体幹の背腹方向へのブレも大きく、エネルギー効率からみると習熟した潜水羽ばたきには見えません。水底にある餌を採る点で、マガモなどの採食法の延長線上に位置する様に見え、基本的に潜水して水平方向に移動して小魚などを追い求める潜水動作ではない様に見受けられます。これは海女がターゲットとする海底のアワビやサザエ−移動性に乏しい−を捕獲するのと同様に、基本的に垂直潜水。垂直浮上型の遊泳と言えそうです。水中を横方向に移動して逃げる魚を追い求める巧緻性の高い潜水ではなさそうな訳ですが、尤も、この先に進化してウミスズメ科のトリやカツオドリなどの様に潜水を巧緻化させ、水平移動も巧みとする可能性はあるでしょう。 ここに来て思い出しましたが、40年程前にTVのドキュメンタリー番組で見たのですが、沖縄の或る離島出身で本土でサラリーマンをしている男性が故郷の海で素潜りしてカメを捕獲するシーンが放映されました。離島の掟で、素潜りしてカメを捕獲する事が一人前の男であると認められる通過儀礼であり、男性はこれに挑んだ訳です。海面下を水中移動しタイマイの様なカメの捕獲に成功したところで番組は終わりましたが、この様な潜水・水平遊泳での漁法は沖縄の猟師には極く一般的な事なのかもしれませんね。ヤスで魚を突く、魚群を網に追い立てるなどの際に水平型の潜水が行われそうです。まぁ、海女のスポット的な垂直往復漁法とは性格を異にする漁法です。トリの潜水動作を考える過程で、海女の潜水漁法の特徴が明確に<浮上>しましたね。 |
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話を元に戻しますが、小型のカモであるキンクロハジロ Tufted duck, Aythya fuligula は、完全に体幹を水没させての潜水が巧みであり、体幹の真後ろに後肢を配置したまま、足ゆびを大きく開いて大方左右同時のパドリングを行い、水中を上下左右自在にスイスイと進む事が出来ます。この時に翼は利用せずに畳んだままです。俊敏な各方向への動きが出来ますので、ウなどと同様に小魚などを追い求めて捕獲する事も可能な筈です。因みに、キンクロハジロよりもずっとサイズの小さいカイツブリ (これはカモの仲間ではありません)の潜水動作中も、似た様な後肢の利用を行います。この後肢の利用法は、カツオドリが後肢を腹の下側に屈してから後方へと伸展して後方に水を押しやる方法(後肢屈伸動作型、向きは異なるがカエルの脚の動作に似ている)と異なり、船が船尾に取り付けたプロペラで推進力を得る方法(後肢伸展維持型、ヒトのクロール泳法の後肢動作もこの一種)にも似ていて、不要な水の抵抗を産まない点でより効率的な遣り方でしょう。アザラシの後肢も体幹の真後ろに配置して足の平を叩く様にして、前肢のパドリングに拠る推進力産生の助けとしますが、この動作に類似しています。 この様に同じカモの仲間とは言っても、潜水能力の差異が大きく、水面に浮かんで首を水面下に突っ込む程度のものから。垂直型潜水、更には巧みに水平型潜水遊泳するものまで多様性に富んでいることが分かります。余談ですが、院長は、と或る動物商から輸入中に死亡したキンクロハジロの冷凍標本を数体譲渡され、冷凍庫に入ったままになっているのですが、折りを見て肉眼解剖的な観察を行おうと考えて居ます。 |
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