羽ばたきロコモーション 海鳥17 |
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2021年9月10日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 ウミガメの様な水中羽ばたき型の遊泳ロコモーションを示す各種の動物を引き続き見て行きましょう。今回から皆様お待ちかね!のペンギンの仲間を扱います。これまで潜水動作を示す幾つかのトリをご紹介して来ましたが、それに特化したペンギンの本家登場との次第です。 以下本コラム作成の為の参考サイト:https://en.wikipedia.org/wiki/Penguinhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ペンギンhttps://en.wikipedia.org/wiki/Great_aukhttps://ja.wikipedia.org/wiki/オオウミガラスDemographic reconstruction from ancient DNA supports rapid extinction of the great auk. Jessica E Thomas, et al. eLife 2019;8:e47509 doi: 10.7554/eLife.47509https://elifesciences.org/articles/47509(全文無料で読めます)https://en.wikipedia.org/wiki/Emperor_penguinhttps://ja.wikipedia.org/wiki/コウテイペンギンhttps://en.wikipedia.org/wiki/Little_penguinhttps://ja.wikipedia.org/wiki/コガタペンギンhttps://en.wikipedia.org/wiki/African_penguinhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ケープペンギンhttps://en.wikipedia.org/wiki/Humboldt_penguinhttps://ja.wikipedia.org/wiki/フンボルトペンギン |
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ペンギンとは何か? ペンギンは南極海域を主たる棲息場所とする飛べないトリの仲間ですが、ガラパゴスペンギンのみ僅かに赤道を越えたガラパゴス諸島に棲息しています。実はガラパゴス諸島は赤道直下にありながらも、南極から北上するフンボルト海流が南米大陸の西岸に沿って進む先に位置します。ガラパゴスペンギンの祖先も南極周辺海域からその潮の流れでガラパゴス諸島に行き着いたと考えて良さそうです。全種で濃色と白とのコントラストの利いた羽毛に覆われ、翼は泳ぐ為のヒレとなっています。潜水してオキアミ、魚、イカや他の海棲生物を捕獲します。大まかには、陸上と海中とで半々の時間を過ごします。 最大のペンギンは寒冷環境下に棲息する コウテイペンギン the emperor penguin Aptenodytes forsteri ですが、成体で身長が平均 1.1m、体重は 35kg となります。こんなに重ければ空中を羽ばたいて飛ぶのは不可能ですね。 最小種は コガタペンギン the little blue penguin 別名 the fairy penguin Eudyptula minor ですが、立位時で高さ 33cm、体重は約1kgです。こちらは ニュージーランド周辺並びにオーストラリア大陸南岸の温帯域に棲息します。地表歩行時に直立せずにやや前傾姿勢で歩行するので、原始的なペンギンの形態を保持しているとも考えられます。即ち、ボディサイズが小さい故に、立位を取り体長軸を鉛直線に合致させる必然性が薄かったが故に、一般的なトリに近い姿勢を保持するとも考えられるでしょう。即ち、ペンギンとして大型化すればするほど、体重心をを鉛直線上に配置し、歩行時のバランスを取り易くするとの作戦です。因みに、ヒトでも然りなのですが、立位になれば重力が下腹部に掛かり、臓器脱(直腸ヘルニア、子宮、膀胱ヘルニア)、血行不良(痔疾、下肢静脈瘤など)も来し易くなり、二足歩行は進化している、万歳!と単純に考えるのは浅慮に過ぎると思います。コガタペンギンに関しては、立位に向かう途上にあるとも、逆に立位だったペンギンが小型化するに伴い、二次的に一般的なトリの姿に戻りつつあると考えることも可能な訳です。 現況では、大型サイズのペンギンほどより寒冷な場所に生息し、小型のものは温帯或いは亜熱帯域に棲息します。有史前のペンギンには、ヒトの身長と体重に同じな巨大種も居ました。ペンギンは亜南極域で非常に多くの種に分化を遂げましたが、少なくとも1種の巨大ペンギン種が赤道の南 2000km周囲の海域に 3500万年前に棲息していましたが、当時の気候はは現在よりも明らかに温暖でした。 : 現生のペンギンはペンギン科の6属17〜20種とされますが、ペンギン目にはペンギン科のみが存在します。詰まり、1つの目に20種程度のトリしか存在しない、孤立し閉ざされた狭い仲間たちとも言えるでしょう。哺乳動物の目 (もく order) で言えば霊長目に20種程度しか居ない(実際には我々ヒトを含めて霊長目は250種程度の大所帯です)のに匹敵しますが、実は哺乳類の分類の目とは異なり、トリの分類の目の間には互いに大きな違いが存在せず、哺乳類の科 (か family) 程度の違いしか無いとの意見もあります。トリに関連する web 上の記事を読むと、分類の目や科の帰属が研究者毎に大きく変動することに気が付きますが、これは、遺伝学的な解析が十分には進んで居ない事に加え、遺伝子自体の絶対的な差異が小さく、その僅かな違いを元にモノを言う故のばらつきが出ることもあるからなのでしょう。飛翔すると言うことで絞りに絞られた少数集団のトリの先祖、即ち同じ遺伝子を持つ集団から派生して、飛翔せねばならないとの強い環境圧が常に継続する中で、大きな遺伝的変異を生ずることなく、生き延びて来た集団がトリそのものである、と考える事も出来るでしょう。或る意味、少数精鋭集団とも考えて良いでしょう。これは、進化の初期の時代にトリとしての基本的設計が(おそらくは急速に)完成の域に達し、そのタガの元で後に幾らかの遺伝的放散を見たとも言い換える事が出来ます。ペンギン目はミズナギドリ目 (アホウドリ、ミズナギドリ、ウミツバメなどを含む)に一番近縁ですが、ペンギン目のトリが全て空中を飛べず、潜水が巧みであるのに対し、ミズナギドリ目は完全飛翔性で且つ潜水は行いません。まぁ、血は近いですが運動面での遣る事が大きく違っている訳ですね。しかし行う動作は類似していて、羽ばたき動作で前方推進し、漕ぎ進める媒体が空中と水中の違いに過ぎない訳です。<ちょっとした>スイッチの切り替えで、運動面での一見大きな違いが生まれたのでしょう。 |
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現在ではペンギンを知らない人はほとんど居ないと思いますが、実はペンギンが世に知られたのはそれ程昔の話ではありません。元々、北極海、北大西洋、更には地中海の西部まで幅広く棲息していた飛べない潜水性の大型海鳥であるオオウミガラス Great aukPinguinus impennis (ウミスズメ科、学名は) をスペイン語で penguigo (太っちょ)と呼んでおり、この語は16世紀には使用されています。大航海時代が幕明けし、南半球を航海したヨーロッパ人がペンギンを目撃し、ああ、ここにも北半球のペンギンの仲間が居たと同じ名で呼んだのが由来であり、一方、オオウミガラスの方は乱獲により17世紀ごろから激減し、1844年には絶滅してしまい、ペンギンが元々とは違う南のペンギンを指すに至った訳です。オオウミガラスを指す英語のペンギンの名の由来については、ウェールズ語の、頭の白いトリに由来するとの説も存在し、統一的見解に収まってはいません。オオウミガラスの現在の属名である Pinguinus はラテン語の太った、脂ぎったに由来しますが、スペイン語の、太った、と同根です。 因みに、オオウミガラスの骨格標本は相当数が現存しており、本物かどうかは不明ですが、日本円で30万円弱程度で交連骨格標本が売りに出されている web サイトを院長も見ています。1844年に捕獲された最後の1羽は剥製として、スコットランド、グラスゴーの Kelvingrove Art Gallery and Museum に今も遺されています。確かに一見するとペンギンそのものに見えます。剥製自体は70体程度が各地に現存しています。 オオウミガラスの方は西ヨーロッパ或いは北米東岸の沿岸地域の住民には知られたトリだった訳ですが、実際に文明国の人々が現在のペンギンの実物を見たのは、南氷洋での捕鯨船が持ち帰った個体が動物園や水族館で飼育・公開され、その可愛らしい様子からキャラクター化もされた20世紀に入ってからの事とされています。現在では各地の動物園などで、温帯域に棲息するが故に飼育し易い小型のペンギンである、ケープペンギン属 Spheniscus の、ケープペンギン African penguin Spheniscusdemersus (体長70cm程度の中型)、 フンボルトペンギン Humboldt penguin Spheniscus humboldti などは極く普通に見る事が出来ます。 次回コラムではペンギン vs. オオウミガラスの南北対決−どこが等しくどこが異なるのか−に絡めてお話を進めましょう。 |
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