羽ばたきロコモーション 海鳥18 |
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2021年9月15日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 ウミガメの様な水中羽ばたき型の遊泳ロコモーションを示す各種の動物を引き続き見て行きましょう。前回に続きペンギンの仲間を扱います。 以下本コラム作成の為の参考サイト:https://en.wikipedia.org/wiki/Penguinhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ペンギンhttps://en.wikipedia.org/wiki/Great_aukhttps://ja.wikipedia.org/wiki/オオウミガラスDemographic reconstruction from ancient DNA supports rapid extinction of the great auk. Jessica E Thomas, et al. eLife 2019;8:e47509 doi: 10.7554/eLife.47509https://elifesciences.org/articles/47509(全文無料で読めます)Zoological Museum of Moscow Universityhttps://ru.wikipedia.org/wiki/Зоологический музей Московского государственного университетаhttps://www.gbif.org/species/113360689Pinguinus impennis (Linnaeus, 1758) In: English Wikipedia -Species Pageshttps://en.wikipedia.org/wiki/Razorbillhttps://ja.wikipedia.org/wiki/オオハシウミガラス |
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オオウミガラスとは? 前回、元々のペンギンの名はオオウミガラスに与えられたものでしたが、オオウミガラスの絶滅に伴い、よく似ている現在のペンギンの方を指す言葉になった、とお話ししました。それでは本当にオオウミガラスとペンギンとはよく似ているのでしょうか?2者を比較する前にオオウミガラスはどの様なトリであったのか、その実態に迫りましょう。 既に絶滅してしまったオオウミガラスですが、少し前にご紹介したウミスズメ科のトリの仲間ですが、他のウミスズメ科のトリよりは格段にボディサイズが大型で、全長約 80cm、体重 5kgに達します。南半球のペンギンに類似して、身体の背中側の毛色は黒く、腹側は白色です。クチバシは大きめです。翼はやや小さめで、全く空中を飛翔する事は出来ませんでした。 交連骨格標本 (組み立てた骨格標本)が欧米各地の博物館等に遺されていますが、それを観察すると、実際、前肢骨の造りが幾らか短めに見えますが、上腕骨を胸に引きつける胸筋群の付着の場を与える胸骨の竜骨突起は強大に発達し、潜水時の強力な羽ばたき推進力を得ていたことが判ります。首はウミガラスなどと異なり短く、体幹は一体化を強めて弾丸用の形状です。後肢が体幹の後方に突き出ているのは、潜水時にカカトから先を背腹させての推進力を得るのに有利ですし、またそれは自ずと地表或いは氷上での立位を招きます。まぁ、確かにペンギンには他人のそら似でよく似ています。 遺伝子解析からは現生のオオハシウミガラスに非常に近縁であることが判っています。但し、オオハシウミガラスの方は、他のウミスズメ科のトリと同様に空中飛翔も潜水もどちらも得意とします。オオウミガラスは他のウミスズメ科のトリと同じく、普段は海上で生活し、繁殖期のみ上陸して産卵し雛を育てていましたが、飛べないことに加え、ヒトを怖れずに居たために、こぞって乱獲されてしまい絶滅の道を辿るに至りました。陸上或いは氷上を拠点として、採餌の時のみ海中を潜水するペンギンとは、この点が異なっています。 現生のウミガラスの交連骨格標本と比較すると、オオウミガラスは首(頸椎部分)が短く、またクチバシの高さが高くなっている点が目に付く違いですが、他の特徴は大方類似しています。 少ない画像からの推論に過ぎませんが、院長としては形態面からは、どうしてオオウミガラスが飛翔出来ず、他方ウミガラスが飛翔出来るのかの違いが読み取れませんでした。これから考えると、オオウミガラスはボディサイズが大型化した為に、空中飛翔するパワーが出力出来なくなっただけではないのか、と推論です。ボディサイズの大型化は重さ当たりの体表面積を格段に下げるのに貢献し、寒冷環境に於いては生存に有利になります。南極大陸周辺の寒冷地に棲息するペンギンほど大型化するのと同様です。ヒトを含めた外敵の殆ど居ない環境では、空中を飛んで逃げる必要も無く、、採餌動作としての潜水に特化し、それに絞り込んで生活するのは合理性が確かにあります。斯くして、或いは結果として、飛翔性を失うに至ったのではないでしょうか? |
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ペンギン vs.オオウミガラス 立位姿勢を取らせたペンギンの交連骨格標本はどこの国の博物館でもごく一般的に見ることが出来ます。いずれも立位時に膝関節を大きく屈していることが良く判ります。人間がウサギ跳びをする時に膝を大きく屈するのに似ています。外見的には立位の胴体の下にペンギンの足先が顔を覗かしている姿しか見えませんが、中身は後肢を大きく屈している訳です。これは一つには、寒冷環境に出来るだけ後肢の曝露を避ける適応と思われます。トリでは、空中飛翔中に胴体部分がブレない様に、胸郭と骨盤が互いの可動性が低く、飛行船の胴体の様な一体化した構造ですが、更に外部に突きだした後肢を屈して体幹と出来るだけ一体化せんとの工夫でしょう。氷の下の海水に潜水中は、後肢を体幹後方に突きだして足を背腹に往復してパドリングして推進力産生の足しにしますが、海水温はせいぜいがマイナス数℃程度であり、氷上のマイナス60℃などに比べたら温泉の様な暖かさかもしれません。後肢も伸ばせる訳です。地表或いは氷上ではこの様に後肢を大きく屈した姿勢(肢位と言う)ゆえ、一体化した体幹+後肢の末端に足が出ている形になり、どうやって二足歩行するのかと言えば、体長軸、即ち鉛直線回りにこの一体構造を左右に反復回転して距離を稼ぐしか有りません。後肢を縮めているので歩幅も稼げずに、ペンギン特有のちょこまかした二足歩行になってしまいます。ヒトがウサギ跳びスタイルで屈んでいる姿勢で前進する倍も同様の歩容 gait になってしまいます。 これに対し、古くから遺されて来たオオウミガラスの交連骨格標本では、大腿骨と下腿骨は90度程度に維持されています。現生のウミガラスの立位時の骨格標本でも同様の肢位を取らせています。二足歩行時には、後肢の自由度がまだ大きく、また歩幅も大きく取れますので、同じ様な性質の歩行を行うにしても幾らか効率良くは進めそうに見えます。 その他の骨格要素の違いとしては、ペンギンでは肩の関節と胸骨の竜骨突起を繋ぐ烏口骨(うこうこつ)が頑丈に発達し、オオウミガラスのそれが小振りである事とは対照的です。ちなみに肩関節からカーブしながら腹方に伸びて左右で合する骨は鎖骨です。鎖骨はペンギン、オオウミガラス、ウミガラス共に発達が良好です。また、ペンギンではその外観からは予想されない様に、結構な合計長の頸椎を持って居ますが、オオウミガラスラでは全体長が明らかに短縮しています。ウミガラスもペンギン同様に長い頸部を持ちます。 この様な、外見からはちょっと分かり難い骨格の違いはありますが、系統関係の離れるトリが、極地近傍の寒冷環境に棲息し、体幹を大型化させ、空中飛翔性を失い潜水に特化し、直立的な二足歩行化を行う、との共通点が有ります。これは、南北と地球の両極の対極に位置しながらも、寒冷環境に適応した結果、似た様な形態、そして恐らくは生理機構を獲得するに至ったとの、適応放散を通じての収斂現象の結果と考えて良かろうと思います。と言いますか、全くの交流を持たないトリの間で、これほどまでの類似した方向に進化したことに院長は驚かされもします。只、寒冷環境に強力に適応したのは矢張りペンギンに軍配が上がると言えそうです。これは例えば、ペンギンでは産み落とした卵は、すぐに両足の上に乗せて体幹下腹部で包むようにして保温し、孵化した雛鳥も同様にして保温する習性がありますが、これは巣作りの素材すら得られず、足の下は氷しかないペンギンの生息環境への適応行動でしょう。オオウミガラスが他のウミスズメ科の仲間と同様、繁殖時に上陸し、巣の上に産卵したのとは大きく異なっています。まぁ、オオウミガラスは真のペンギン化する進化の 2歩ほど手前にあったトリと言うところでしょうか。 次回コラムではペンギンのロコモーションついて見て行きましょう。 |
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