大型のコウテイペンギンの成体では、平らな氷上での通常の歩行時には、一体化させた<体幹+折り畳んだ後肢>を鉛直軸回りに左右交互に反復回転して進みます。これは上述の様に寒冷曝露への対策とも言えますが、卵や雛を足の甲の上に乗せて下腹部で包み込むようにして前進移動する際にも適応的な歩容です。この際、体幹の前後左右へのプレはあまり観察されませんが、歩幅は稼げません。ふわふわの雪が積もった場所や凸凹した場所ではこの様な歩容では進む事が出来ません。一方、独り立ちしつつある雛鳥や小型のアデリーペンギンなどの場合、足場の悪い場所以外の平らな場所であっても、後肢をやや伸展し、スタスタと歩幅を大きくして前進しますが、この際には後肢は前後方向への運動成分を増し、同時にガチョウの二足歩行時の様な体幹の左右のブレ、即ち rolling が発生するのが明瞭に見て取れます。鉛直軸回りの反復回転性の程度は弱くなります。この歩容はコウテイペンギンが海面下に飛び込む際の加速付けの際や足場の悪いところを進む際にも観察されますが、30kgを超える体重を後肢を伸ばして支えるのは苦しいと見え、基本は短時間の動作に留まります。
Sneak Peek: Emperor Penguins | Dynasties | Saturdays at 9pm | BBC America
2019/02/14 BBC America Will the ice hold out long enough for a new generation of
Emperor Penguins to grow? https://youtu.be/u7e78zVGCTg
コウテイペンギンのロコモーション。鉛直軸回りの反復回転を基本としつつも、後肢は前後方向
への運動成分を持ち、同時に幾らか体幹の左右のブレ rolling が発生しています。ソリの様に
水平位を取り、足で蹴り出して漕ぎ進める方法も取りますが、地表では立位歩行がメインです。
Close Encounters of the Emperor Penguin Kind 2012/11/12
Antarctica New Zealand Footage shot by Jenny Ryan on the sea ice while on a trip
between Cape Evans and Cape Royds. https://youtu.be/646p-spLFpE
コウテイペンギンのロコモーション。鉛直軸回りに反復回転して前進するのが見て取れます。
体重が重そうで、二足歩行する自体がラクではなさそうに見えます。前方を見るために頭
部を体幹とは逆方向に回転させていることに気が付きましたか?
Emperor Penguins in Antarctica 2010/12/09 Kevin Knutson
https://youtu.be/c7M686pXr6M
実際に南極に出掛けてコウテイペンギンを自分の目で見られれば最高ですね。
Penguin walk at Asahiyama Zoo, Asahikawa Japan. 旭山動物園のペンギンの散歩。
2015/01/20 Adrian Leis The penguin walk at Asahiyama Zoo in Hokkaido.
Pretty cute! https://youtu.be/GbHoHfc7uIg
柔らかな積雪の上を歩行させていますが、仮に最大種のコウテイペンギンであれば
本来的に平らな氷上を後肢を挙上させること無く進むのがラクですので、後肢を挙上
しながらこの様な積雪面を進むのは苦しい筈です。これはオウサマペンギンですが
体重は10-16kg 程度とコウテイペンギンの半分程度にとどまります。歩行時の鉛直
軸回りの反復回転性も弱く、下腿を前後に動かして大股に進むのもそれほど困難で
は無さそうです。但し、体幹の左右のブレ、rolling は一段と大きいですね。
Penguin Baywatch (Wildlife Documentary) 2017/04/26 Best Documentary
Meet Chinstrap, Macaroni, Adelie, Gentoo, King and... Queen. Spend a year with
them in the icy waters or on the volcanic islands of the vast Southern Ocean.
https://youtu.be/lF9qWq3uVcg
オウサマペンギンの歩容を見ると、確かに鉛直軸回りの反復回転性が弱く、体幹に rolling
が発生し、また後肢を伸展させて体幹から長く突き出ている様に見えます。
Adelie Penguin Sliding On Its Belly 2021/01/09 Monika Kloudova
Antarctic Peninsula 2018 - Detaillee Island: During our visit of Detaillee Island
I came across this adorable Adelie Penguin sliding on its belly which is faster
and more efficient way for penguins to move than walking. I couldn't stop laughing
how super cute this Adelie penguin was! https://youtu.be/tKPv_2hicY0
アデリーペンギンの腹滑り。この撮影者がコメントしている様に二足歩行するよりは効率
的且つ速く前進出来ます。人間が雪上を滑って遊ぶのと同じですが、トリの行う、空中
飛翔、潜水遊泳の中間的な、地表滑空とでも呼べそうな動作です。まぁ、ペンギンにして
みても他のトリと同様に本来的に地上歩行が苦手と言う訳なのでしょう。
以上を鑑みるに、
1.寒冷への適応→<ボディサイズの大型化+後肢屈曲>
→<鉛直軸回りの反復回転性強化+平らな地表への適応>
2.潜水への特化→後肢の体長軸に沿う配置→地表での立位姿勢
の2つから、ペンギンの大型化、立位後肢屈曲型歩容が成立した、と考えても良いでしょう。
暖かい場所に生息するペンギンは、これほどまでには特殊化を示さず−進化の途上にあるのか、<普通>のトリに二次的に戻りつつあるのかは別として−ボディサイズは小型化し、体幹は斜めに配置、足場の悪い凸凹した場所や岩場でもOK、体幹の鉛直軸回りの反復回転性減少且つ rolling 増大、後肢はやや伸展してスタスタ歩く、と言う次第です。即ち、ペンギンの地表二足歩行にもグラデーションが存在し、<ペンギン歩き>と単純に括るのはあまり正確とは言えませんね。まぁ、ボディサイズが歩容に違いをもたらす主たる要因だろうと院長は考えます。体重が軽ければ、後肢を伸ばしてスタスタと歩幅を稼いで前進する傾向が強まる一方、体幹の rolling も増大する、との理解です。
歩行時の鉛直軸回りの反復運動性はコウテイペンギンでは明確ですが、これが二番目の大きさのオウサマペンギン (体重はコウテイペンギンの半分程度の10〜16kg程度)になると、一気にこの傾向が弱まり、上記の様な歩容となります。本邦のさる動物園でオウサマペンギンに行進させるのを売りにしている施設がありますが、積もった雪の上をやや大股に、体幹を大きく rolling させながら進むのが観察出来ます。まぁ、運動不足を解消させるのにも、もって来いでしょうね。。コウテイペンギンではこの様な運動は<拷問>になるのかも知れません。