羽ばたきロコモーション 海鳥20 |
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2021年9月25日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 ウミガメの様な水中羽ばたき型の遊泳ロコモーションを示す各種の動物を見て行きましょう。引き続きペンギンのロコモーションについて扱います。 以下本コラム作成の為の参考サイト:https://en.wikipedia.org/wiki/Penguinhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ペンギンhttps://www.gbif.org/species/113360689Pinguinus impennis (Linnaeus, 1758) In: English Wikipedia - Species Pageshttps://en.wikipedia.org/wiki/Magellanic_penguinhttps://ja.wikipedia.org/wiki/マゼランペンギンhttps://en.wikipedia.org/wiki/Emperor_penguinhttps://ja.wikipedia.org/wiki/コウテイペンギンhttps://en.wikipedia.org/wiki/Ad%C3%A9lie_penguinhttps://ja.wikipedia.org/wiki/アデリーペンギンhttps://sketchfab.com/3d-models/magellanic-penguin-skeleton-10f4eac6879b43e29f0da14d293433c4https://en.wikipedia.org/wiki/African_penguinhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ケープペンギンhttps://en.wikipedia.org/wiki/Humboldt_penguinhttps://ja.wikipedia.org/wiki/フンボルトペンギン |
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ペンギンの水中ロコモーション 水中に潜水するトリには、これまでご紹介してきたウミスズメの仲間の様に、海面にぷかぷか浮かび、おもむろに海面に頭を突っ込んで倒立し、水中へと潜水動作を開始する方法もあれば、カワセミの様に水中の小魚を確認し、それをめがけて空中から急降下して一瞬の内に餌を捕獲し、すぐにUターンして水を蹴って飛翔する方法を取るものもいます。ペンギンは飛翔自体が出来ませんので、南極周辺では氷上から氷の切れ目に顔を覗かした海水面に対し、立位から腹這い姿勢にスイッチングしてその勢いのまま海水面に突入する場合もあれば、立位から突然倒れ込んむ場合もあります。氷の無い場所では、立位で岸壁から倒れ込んで水没する、或いはカモなどの様に海面に水平位で浮かんでいる状態からダイビングするか、になります。 以前ご紹介しましたが、ケープシロカツオドリ Morus capensis の様な、矢の様に垂直急降下して或る程度の深さに潜水し、そこから羽ばたき、そして足で水を押して水平移動するタイプの潜水法も観察されます (急降下式潜水 plunge-dive) が、ペンギンは頭部含め体幹が横断面が円形に近い弾丸のような流線型を呈していますので、翼の強力な推進力産生も加わり、海面に突入せずとも潜水して直ちに高速で遊泳可能です。潜水時には、翼を大きく背側に挙上してから振り下ろす羽ばたき動作が観察されますが、ウミガメの前肢羽ばたき動作と基本動作は同じに見えます。水中でのペンギンの群れがまるで魚群のように見えます。前肢の羽ばたきのみで前進し、弾丸型の体幹の分節的なブレが全く見られず、エネルギーの無駄がありません。見事なまでに整然とした潜水遊泳です。この様なペンギンの潜水時の俊敏且つ高速な運動性を目にすると、地表でヨタヨタ二足歩行しているのは彼らの仮の姿の様に思えてしまいます。まぁ、水面下でこそペンギンの本領が発揮される訳です。ちなみに、水中での巡航潜水時には足は体幹の後方に配置して動かしません。俊敏にターンするなどの場合には、前肢、頸部、足を利用しての方向転換が行われるのでしょう。 潜水後に海面まで上昇して息継ぎして再び潜水に入る動作も普通に見られますが、いよいよ<上陸>、特に真っ平らな氷上に上がらねばならないコウテイペンギンでは、<上陸>前に加速を付けて空中へと突撃ジャンプします。これはカツオドリが海中に没入する前に空中で加速するのとは、媒体に関しては真逆です。この上陸前の加速で気泡が多く発生しますが、これは羽毛に貯めた防寒のための空気層を絞り込んでいるからでしょう。体幹を細くして加速し易くするフィニッシュ動作の様にも見えます。この上陸動作は、捕食者に追われた時にも役立ちますね。体幹を水平にして腹這いの状態で上陸しますが、そのままソリの様に移動したり(英語ではトボガニングTobogganing と呼ぶ、トボガン Toboggan とは北米 native の利用する簡易なソリを指す)、その後すぐに直立したりします。 |
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潜水への形態的、機能的適応 ペンギンの水中飛翔も他の羽ばたきタイプの潜水性を持つトリに等しく、翼を用いる他にありません。但し、空中飛翔と潜水羽ばたきの両者を可能とするトリに比べると、前肢としての翼のヒレ形状化は一段と進み、翼を構成する骨の配列は他のトリとは変わらないものの、個々の骨は短縮傾向を示すと同時に頑丈化しています。前肢には風切り羽根などは無く、<剥き出し>の、幅の狭いヒレとなりますが、一見、ウミガメの前肢形状にも類似します。尤も、恒温動物ならでの高速パドリングを行う事が可能で、高速度並びに迅速な方向転換を示すキレ良い遊泳を行い、見ていて気持ちよいぐらいです。因みに、前肢は、不安定な地表を歩行する際にはバランサーとして利用出来ますが、極寒下のコウテイペンギンの氷上歩行では、前肢はぴたりと体幹に貼り付けたまま前進し微動だにしません。尾も歩行時にバランサーとして利用しているとの説も見られますが、質量も小さく、地表での風よけ、或いは潜水時の舵取り機能或いは水平尾翼としての潜水姿勢安定化に寄与するのではないかと院長は考えて居ます。 ジェンツーペンギンはトリの中では最速で潜水移動するとされ、餌を探したり捕食者から逃げたりの際に最大時速36kmで遊泳できます。また水深 170〜200mの深さに潜ることも出来ます。尤も、コウテイペンギンも同じ程度の速度は出せそうです。寒冷海水下での数少ない観察例からモノを言いざるを得ませんので、断定的な表現は控えた方が良さそうに感じます。小型種のペンギンは通常は深く潜水することは無く、海面下近くで1〜2分潜水するにとどまります。大型種ほど深く潜水可能で、コウテイペンギンは餌を探しながら水深 550mまで潜水可能とされ、この深さですと、55気圧の水圧が掛かりますが、ペンギンの弾丸型の形状は水圧に耐える造りでもあるのでしょう。体幹の骨格もそれに耐える様な設計が為されている筈ですね。一説に拠ると、この高圧下では体容積が地表の75%にまで縮むとの算定が為されていますが、ひょっとすると肋骨などが柔軟に屈曲して体幹が細くなるのかも知れません。 コウテイペンギンは無呼吸で20分間の潜水が可能です。クジラ同様に筋肉中に高濃度のミオグロビンを保持し、そこに酸素を貯め込む機構でも持って居るのかなどと考えて居ますが、ペンギンの長時間の息堪えの機構についてご存知の方がおられましたら院長までご連絡を! |
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