飛べないトリB フクロウオウム |
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2021年10月15日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。トリの羽ばたきロコモーション付いて見て行きましたが、序でに?翼を使わずに地上生活するに至ったトリのロコモーションについて採り上げましょう。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 以下本コラム作成の為の参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/キーウィ_(鳥)https://en.wikipedia.org/wiki/Kiwi_(bird)https://ja.wikipedia.org/wiki/オウム目https://en.wikipedia.org/wiki/New_Zealand_parrotフクロウオウム科https://en.wikipedia.org/wiki/Kakapohttps://ja.wikipedia.org/wiki/フクロウオウムhttps://en.wikipedia.org/wiki/New_Zealand_kakahttps://ja.wikipedia.org/wiki/カカhttps://www.nationalgeographic.com/science/article/on-islands-even-flying-birds-are-edging-towards-flightlessnessBirds on Islands Are Losing the Ability to FlyByEd Yong Published April 12, 2016 |
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フクロウオウム カカポ Strigops habroptilus 本種フクロウオウム owl parrot (マオリ語でKakapo カカポ)はオウム目 Psittaciformes に属するトリの中の最大種であり、体重 4kgにも達します。見ての通りで外見はオウムそのものですが、空中飛翔を可能とするまでの力量無く、ニュージーランドの森の中の木の幹の間を跳躍したり、地面に舞い降りたりする程度の<飛翔力>に留まり、この点は時に数メートルの高さに飛翔することもある家禽のニワトリ以下とも言えます。当然乍ら体重が重い分だけ飛翔するのは困難となることはご理解戴けるでしょう。体重 4kgと言うとお茶などの入って売られる 2リットルのペットボトル 2本分ですので、これで空中飛翔させるのは巨大化した翼を備えるしかなく、その方向の機能形態面での改造を行わねばなりませんが、フクロウオウムはキウイほどには至りませんが前肢骨を小さくさせており、飛翔は放擲したトリと言えます。 前回キウイの項にて述べましたが、元々ニュージーランドにはヒトの入植前には哺乳類はコウモリしか棲息しておらず、地面に降りてもほぼ安全ゆえ、フクロウオウムの祖先も体幹を大型化 (大型化するメリットは多々あります) して飛翔能を失う方向に進化の舵を切ったと考えて誤りでは無いでしょう。トリはその祖先が飛翔生態に特化して一度進化した為、体重を一定以上に増大することに強い制約が掛かっていますが、地表生活が許容される環境では大型化して翼を失う例はそこそこ観察されます。天敵の居る環境では、後肢を発達させて逃げ足を速くしたり或いはそれを武器として敵を蹴り倒すなどの戦略が有効ですが、地上での敵が居ないのであればその様な選択圧は掛からずに、<のほほん>とほぼそのままボディサイズを増大するだけの改変 modification も一つの方途として考えられます。フクロウオウムはそのタイプの進化の産物であった様にも見えますね。 大型化して地表化することのメリットですが、これは哺乳動物などの大型化のメリットと同様に、体重量当たりの消費カロリーが減り、時間的に始終採食して空腹を満たす必要から解放されますし、翼の維持と運動に費やすリソースを他の面に廻す事も可能になります。飢饉に備えて皮下脂肪を蓄える事も出来ます。一番大切な事は脳重量を増大して智恵を発達させる方向の進化が可能になることなのですが、ダチョウなどを見ても分かる様に、どうも地表に降りても頭部(正確には脳)の比率を大型化させるまでに至った進化は見られません。逆に言えば、トリが地表に降りてからの時間はまだまだ浅いとも言えそうです。実際、フクロウオウムの祖先が飛翔してニュージーランドに到来したのは僅か100万年前ですので、このトリの翼を失った歴史は浅いとも言えます。哺乳類の祖先の哺乳類様爬虫類が現れたのは3億年前になりますが、我々の祖先はそれ以降の長い時間を掛けて哺乳類固有の脳にポリッシュアップして<内部配線を作り替え>、また一部の動物は大型化も成し遂げました。フクロウオウムがトリとしての動物学的制約のカラを打ち破り、一皮剥けた進化を遂げるのはこの先だいぶ長い時間が掛かるのかもしれません。 尤も、オウムの仲間はカラスなどと同様に言葉を<オウム返し>に覚える事も出来ますし、院長が以前どこかで見たビデオでは、飼い主が指を鳴らした回数を認識して、3回指をパチンと鳴らすと英語で three と答えるなどしていましたので、これがトリックで無ければの話ですが、数量理解に関しての初期の理解の域には達しているのかも知れません。大型化して地表に降りたフクロウオウムはこの先進化して大化けしないとも言えず...。但し、過去には100万頭程度棲息していたとされますが、哀しいことに現時点での確認個体数が僅か百数十頭と絶滅寸前の危機にあるゆえ、何とか個体数を増大させるのが生物種としての当面の課題となっています。現況では陸生哺乳類の居ない複数の孤島に全個体が移され保護下にあります。ヒトがもたらしたネズミ、イタチ、ネコ、イヌなどにとっては飛べないトリが目の前にヨタヨタ歩いているのですから、卵を含め格好の餌食となってしまった結果です。ニュージーランド開拓と牧畜の持つ黒歴史そのものと言えそうですね。 |
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カカポの機能形態 他のオウムとカカポとの骨格を比較してみると、 @オウムでは前肢骨の長骨(上腕骨と尺骨)が長く、また竜骨突起も突出しそこに付着する胸筋−羽ばたきに必要−も強大であることが見て取れます。Aそれとは対照的に、カカポでは後肢の大腿骨と脛骨が長さと頑強さに優っています。Bオウムでは前肢骨>大腿骨長ですが、カカポでは前肢骨<大腿骨長と逆転しています。Cこれらからオウムは前肢(翼)優先型の飛翔性動物、一方、カカポは後肢優先型の地上歩行型動物であることが歴然としています。Dカカポの前肢骨は縮小傾向にありますが、キウイほどの退化は示しません。E胸郭構造がカカポでは華奢な造りに見えます。F頭部はいずれに於いてもトリにしては大きく強大な造りに見えます。 月並みな表現になって仕舞いますが、一般的なオウムでは翼優先型と言え、後肢よりも寧ろ前肢即ち翼を発達させている典型的飛翔型動物であるのに対し、カカポでは後肢優先型の地表棲息性に向けて有利な改変を受けている動物であることが即座に見て取れます。外見的にはオウムそのものですが、内部形態は矢張り地表型ロコモーションに向けた改変を受けていることが理解出来ます。飛翔時に飛翔のパワーを発動する胸筋群を付着させ支える為の胸郭構造も竜骨突起含め弱体化している様に見えます。但し、そこそこの前肢機能はあると推測され、キウイの様にほぼ完全に飛翔能力を失ったトリではなく、カカポが実質的に飛べないのは、翼の縮小傾向に加え、ボディサイズを大型化させたことの2つが合わさっての事と思われます。要は、完全に地表性に向けて進化したトリではなく、その中間段階程度にあるトリとも言えそうです。胸筋の酵素活性などを調べてみると面白ろそうです。赤みが減じているのかもしれません。 オウムもカカポも頭部のプロポ−ションが大きく見えますが、脳重量の比率が他のトリに比べて大きいのかどうか、文献をご存知の方は院長宛にご連絡を戴ければ有り難く思います。もし脳の相対重量が大きいのであれば、それがオウムの仲間の頭の良さに繋がっている可能性はあるかも知れませんね。実際の脳重量と中身の神経線維の構築を見る事がまず大切で、例えば頭蓋骨が大きいからと言って脳実質が大きいとは限りません。前にシーラカンスの仲間の化石を解析して脳腔容積が大きいことが判明し、シーラカンスは<進化>していると考えられていた時代もありましたが、実際のシーラカンスを捕獲して調査したところ、大きな脳腔には油脂が詰まっていたとの話もあります。オウムの場合も強力な噛む力の力学的構造を維持する為に頭蓋骨が強大且つ強靱化している可能性もあり得ます。 さて、専門的な基礎知識があるとホネを見ただけでそこそこの物言い(妄想?)が可能になります。私の場合は、動物形態学の専門家として単に骨格のみならず筋肉や他の軟部組織の知識もありますので更に深い考察が出来るのかもしれませんが如何でしょうか?話は逸れますが、動物の事をもっと深く知りたい、考えたいとの向きは是非獣医学科に進学することをお勧めしたく思います。 |
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