イヌの股関節形成不全H 外科手術V |
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2019年12月25日 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 英語版のWikipedia のイヌの股関節形成不全の項https://en.wikipedia.org/wiki/Hip_dysplasia_(canine)が文献の引用も豊富で比較的に充実していますので、他文献やweb サイトからの最新情報も補いながら、これを話の軸として話を進めたいと思います。 引き続き観血的治療、即ち身体にメスを入れる外科手術に拠る治療法についてお話しします。 本コラム作成の為の参考サイト:https://en.wikipedia.org/wiki/Hip_dysplasia_(canine)https://flexpet.com/hip-dysplasia-in-dogs/https://www.fitzpatrickreferrals.co.uk/orthopaedic/total-hip-replacement/https://animalmedcenter.com/total-hip-replacement/ |
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股関節全置換術 total hip replacementTHR 股関節全置換術 total hip replacement THRは、欠陥を持つ関節を滑らかな動きを可能にする人工関節に完全に入れ替えますので、特に重症例に於いては最大級の治療効果を持ちます。もし身体の他の関節が障害を受けていなければ、この治療を通じて完全な股関節の可動性が復元され、再発も全くありません。イヌの股関節置換術は、体重がおよそ18〜27kg以上の個体、即ち他の外科的治療が躊躇される重量サイズに達している重度の股関節形成不全例に対しては、臨床的な選択枝としてより好まれます。それに、患畜のサイズが大きいと、骨の細部加工が手技的にも実際楽になります。患畜に適合するサイズのチタン製のソケット&ボールを選択し、ボールの方は骨頭を除去した大腿骨にアンカー部分を押し込み、一方、ソケットの方は、骨盤側にやや深めの穴をくりぬいてはめ込む形となります。寛骨臼側のホネの厚みが薄い、或いは骨質が粗い(骨密度が低下の)場合は、ソケットを取り付けても上手く固定できませんので、X線像でサイズ等含め事前に注意します。 これぞ股関節形成不全の最終兵器、王道との位置づけにも感じられるかと思いますが、手技的にはそこそこの難易度が有り、また実際に費用も安くはありません (米国相場で片側 4000〜5000ドル相当)。 |
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オペの実際ですが、皮膚と皮下組織を切開後、股関節の上を覆っている筋膜や筋腱などを切開し、更に関節包を切り開いて大腿骨頭を露出させます。骨頭を頸部で切断後、アンカー部を差し込む為の穴をドリルで開けますが、大型犬ともなると骨質が硬く、スンナリと穴を通せる訳ではありません。関節臼の中心部に小さな穴を開け、ここに半球状のヤスリの先端を差し込み、左右に揺らしながら回転し、雌型のチタン製部品を取り付ける穴を造ります。次に大腿骨幹にアンカーを押し込み、更にサイドからボルトを貫通し、アンカーが長軸回りに回転する事無きよう、また長手方向に動かぬよう固定します。雌型の方も押し込み、そこに人工骨頭をはめ込めばほぼ終了で、可動域の問題なきことを確認したあとで切開創を閉じれば終わりとなります。 X線像から事前に適合するサイズのチタン製関節を選択すると同時に、それに合わせて加工を行う術具を準備するなどの事前のシミュレーションが大切です。手慣れた術者にとっては3D的な解剖の位置関係など全て頭に入ってのオペでしょう。オペ用の専用の術具或いは保定具を一通り備えるのも安くは無く、院長は米国相場の費用で妥当と感じたところです。個人開業の動物クリニックでは施術は困難ですので、外科専門病院や大学病院等に於けるチームワーク下での施術となります。 |
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これまで全 9回に亘り、イヌの股関節形成不全について解説を加えましたが、本疾患の遺伝的背景が指摘されている犬種を飼育中の方々、或いはこの先に飼育しようとご予定の方々の参考になれば幸いです。本疾患に関して個別のご相談或いはセカンドオピニオン等をお考えの方は、どうぞ本クリニックの相談を一度お受け下さい。イヌの他の遺伝性疾患に関しては、犬種との対応を踏まえ、後日別項にて詳しく述べたいと考えています。 次回 2020年 の年明けからはイヌの運動器に於ける別の重要な疾患である、前十字靭帯断裂についてお話を進めます。どうぞご期待下さい! |
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