カピバラE なぜ半水棲なのか |
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2020年11月5日 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 前回に引き続き、「巨大ネズミ」 カピバラに関するトピックスを採り上げます。院長の専門分野であるロコモーション絡みの話の第二段として、泳法についてお話しましょう。 本コラム作成の為の参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/カピバラhttps://en.wikipedia.org/wiki/Capybarahttps://en.wikipedia.org/wiki/Hydrochoerushttps://en.wikipedia.org/wiki/Lesser_capybarahttps://ja.wikipedia.org/wiki/マスクラットhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ビーバーhttps://en.wikipedia.org/wiki/Beaverhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ジュゴンhttps://en.wikipedia.org/wiki/Dugonghttps://ja.wikipedia.org/wiki/アザラシhttps://en.wikipedia.org/wiki/Earless_seal |
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カピバラのロコモーションなぜ半水棲なのか? モルモットに近い仲間のカピバラとヌートリアは好んで水に入る齧歯類です。河川や沼などの水域に近い場所で食物が豊富に存在する土地であるものの、しばしば雨期には洪水に見舞われ水浸しになってしまう様な土地であれば、水を嫌って樹上に生活するか、洪水の度に高地に移動するか、或いは進んで水に慣れ親しむ道を選ぶのかの3択になります。カピバラの祖先系動物は、<水に対してつべこべ言わない>道を選んだのでしょう。ここら辺は、水中生活性を高めたヤブイヌなどとも似た選択だったとも言えそうです。 水中ならではの栄養に富む食物を採取することも出来ますし、地上肉食性哺乳類からの襲撃の危険性から逃れることも可能になります。尤も、カピバラと同じ場所に生息するジャガーはネコ科で唯一泳ぎが得意であり、視力の弱いカピバラは犠牲になりがちです。嗅覚は優れていますのでジャガーの体臭を風下で察知し、急いで濁った水中に没して姿を隠す、或いは川から岸に退避して土手の樹林帯に身を潜めもします。岸から近い水中に居る場合、ジャガーが狙いを付けて飛び込み襲撃されますのでので、水中は100%安全とは言えませんが、相当程度に避難場所として機能しています。但し、ワニなどに襲われる危険性も生じてしまいます。カピバラはちょっと鈍くさいところを感じると言うか、彼らからの襲撃を完全にかわせる迄の俊敏な水中活動能力を得ている動物ではないと言う事になりますね。 水陸両棲性を持つ他の利点としては、広大な大河を、自由に行き来できる平地の延長として手に入れることも出来ます。河川に分断されることもなく生息域を拡大できることになります。 |
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水中生活への適応形態とは 水中生活性を高めるに当たり、素潜り時に抵抗となる耳介などの突出部を減らし、体型もサツマイモの様な紡錘形に接近させているのが適応的です。尻尾はビーバーやカワウソなどの様に扁平化させて遊泳に利用する以外では基本的に不要ですね。パドルとなる手足を大きくしたり指間に水かきを備えるのも良いことですし、潜水時に耳介を縮めたり鼻孔を閉じたり出来れば格段に快適になる筈です。一般的には、ボディサイズを大型化して体重当たりの体表面積を減少させて水温、特に寒冷からの影響を低下させるのも有利です。断熱材としての被毛層を分厚くしたり皮下脂肪を貯留する−これは浮力を増す−のも役立ちます。但し、カピバラの場合は、特に気温の上がる乾期に水中に入っていた方が涼しくて良いとの意味もあり、寒冷適応としてのボディサイズの大型化ではなさそうです。浮力の効く水中生活性が大型化−生存に有利な面がある−へのタガを打ち破ってくれた可能性もあるかもしれません。大型半水棲動物であるカバについての考察がカピバラ大型化への何かヒントを与えて呉れそうにも思えます。 まぁ、水中生活性への究極の姿形は鯨類や海牛類の様な魚類形態への接近、或いはアザラシなどの様なイモムシ系への改変ですが、カピバラの場合は四肢を用いての地上疾走性も維持していますので、まだ水中生活性への適応度は幕下と言った立ち位置でしょうか。以前にクジラのコラムにて触れましたが、クジラでは筋肉中のミオグロビン濃度を高め(それゆえ赤黒い肉になる)、ここに酸素分子を貯留してアクアラングの様に利用し、長時間の潜水を可能としていますが、魚類型の姿形への進化に留まらず、<中身>の生理特性までも改変している訳です。 同じ齧歯類の仲間ですが、ヌートリアやビーバーの他に、ネズミに近い仲間にマスクラットと言う水中生活性を高めた動物が存在しています。 次回コラムにて水中生活性を持つ齧歯類を紹介がてら、その泳法を一通り観察し、最後にカピバラの立ち位置を再び考えてみることにします。 |
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