ロコモーションの話 ー カメのロコモーションC |
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2021年3月25日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。その第24回目です。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 爬虫類についてのお話の20回目です。引き続き水棲カメのロコモーションについて扱います。 以下本コラム作成の為の参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/カメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Turtlehttps://ja.wikipedia.org/wiki/スッポンhttps://en.wikipedia.org/wiki/Chinese_softshell_turtlehttps://ja.wikipedia.org/wiki/トゲスッポンhttps://en.wikipedia.org/wiki/Spiny_softshell_turtleヌビアスッポンhttps://en.wikipedia.org/wiki/Nubian_flapshell_turtlehttps://www.geol.umd.edu/~jmerck/honr219d/notes/18.html |
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スッポン Chinese softshell turtle Pelodiscus sinensis スッポンと言えば本邦では食用とされ、養殖物が料理店に出回ります。甲羅の形から丸鍋と称して調理しますが、どちらかと言えば、精力剤、薬膳料理としての色彩が強いでしょう。スッポンの生き血を強い酒で割って呑むシーンも院長はTV番組で目撃したことがありますが、自分では経験は有りません。香港の裏通りのヘビ屋で、頼めばその場でヘビを裂いて貰い生き血を呑むことも出来ますが、こちらの方は養殖個体では無いゆえ何の寄生虫を持って居るか判らず・・・。ヘビの養殖は聞いたことが有りませんが(勝手にうじゃうじゃ増える?)、一方、スッポンは養殖技術も確立され、ウナギの養殖 (こちらは正確には幼魚シラスウナギの肥育) と大差ない環境と手間でイケる様に見えます。野生の個体も日本の河川などに棲息していますし、人工的に持ち込まれたものと思われますが、明治神宮の池 (代々木公園側)の周囲の地面を大きなスッポンが散歩しているのを見た事もあります。院長に気が付くと急いで池に突進し、すぽんと水に入りました!すぐ隣が原宿ですが、こんな近くにスッポンが棲息していることを知る者は少なそうです。勿論、神域ですので捕獲することは許されません。 スッポンは、日本、中国を含め、東アジア域に棲息します。漢字では鼈 スッポンと表記され龜 カメとは違っていますが、古来中国でも区別されて来たのでしょう。スッポンが静かに産卵できる川や沼の天然の砂浜が開発によって失われて、残念ながら野生個体は各地で数を減らしているとされます。養殖技術が確立していますので、完全に絶滅する事は考えられませんが、矢張り野生個体に生き延びて欲しく思います。 |
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スッポンの形態 形態的にはスッポンは英語で softshell turtle と呼称され、確かに骨格を観察すると、背甲の周辺部の肋骨が互いに癒合することなく、分離して櫛の歯の様に突き出ており、詰まりはスッポンの甲羅の周辺は柔らかく、皮革様を呈します。時々、古道具屋の店頭に額入りのスッポンの甲羅が並んで居る事が有りますが、初めて見た人は、何か人工的な造りものと勘違いするかもしれません。腹甲も退化的で、腹側を覆う面積も小さくて、腹の前後端はこれまた皮革様で柔らかいのです。この様な甲羅の柔軟性−甲羅の皮骨由来の部分の退化・後退傾向−は水中遊泳する時に、甲羅周辺に発生する水の乱流を抑えて滑らかな遊泳に寄与する可能性はありそうです。ガチガチに固めた甲羅で水中をゆっくり泳ぐ戦略に対し、捕食者から身を守る為の装備を軽くしても素速く泳いで逃げる道を選んだとも言えるでしょう。まぁ、戦車に対する装甲車の様な位置づけかもしれませんね。その分、人間が調理加工し易い訳でもありますが。 腹側で硬い甲羅で覆われるのは身体の中域の部分がメインですので、その頭側と尾側は甲羅が退化的で、細い箸の様な構造であったり、左右幅を縮めていたりしており、ヘリの付近は柔らかい状態です。詰まり、前後肢はその付け根の骨である肩帯、腰帯まで<剥き出し>であり、この点は、それが肋骨で構成される胸郭の背側部分に覆われている以外は、他の爬虫類と同様と言えます。尤も、肩帯の腹側端にアンカーを与えるべく、その部分の骨要素は遺している様に見えます。特に前肢の付け根の骨である前肢帯が腹側の腹甲の骨要素どの程度に力学的な連結をしているのか問い直すと面白ろそうに思います。この辺をスッポンの異なる種同士間の、また他のカメとの比較を交え、機能形態的な解析を試みて前肢−肩帯構造の進化を語ると面白そうです。志有る若者に対して、スッポン業界が材料の提供並びに資金援助をして戴けたらとも思って居ます。 尚、スッポンのこの様な骨格の様相が、カメが甲羅の無い生き物から進化する途中の状態を示すのか、或いはカメとして完成したものが甲羅を二次的に退化させている段階にあるのかは、判断が分かれるところと思いますが、院長は、退化説を採りたいと考えます。これは1つには、肩帯が胸郭に取り込まれる過程に於いて、背側、腹側共にまず堅固な構造体の中に取り込まれ、両者との癒合によって前肢支持のアンカーとして機能し得た可能性を考えるからです。この際に、カメ固有の簡略化した肩帯構造も得ていますが、腹側の甲羅が無い状態では、この様な肩帯の構造的改変が起こり得なかっただろうと考えるからです。各種スッポンで、腹甲の退化の程度が異なりつつも、一応は肩帯のアンカーポイントを遺している姿からも、甲羅を固める進化の途中にあるのではなく、必要な構造をギリギリまで遺している退化過程にあると考えるべきと思います。まぁ、三叉状に完成された肩帯の形状−カメとしての完成形を示している−がモノを言っているとの判断です。 |
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スッポンの泳法 スッポンは水中生活者のイメージが強いですが、院長が明治神宮で目撃した様に、単なる甲羅干しをするのみならず、意外や地表も歩き回る様です。 泳法としては、左右の前後枝を交互に漕ぎ進める型であり、アカミミガメなどの水棲カメ一般に観察される泳法と同じです。詰まりは地表ロコモーションの歩容を基本的に変えること無く、そのまま水中を漕ぎ進めるスタイルです。また、手足の平がウミガメほどでは無いにしても指間に水かきを持ち、ヒレ化しています。ロコモーション機構的には、水中遊泳性に向けてウミガメなどに見られる羽ばたき型の高度な特殊化を遂げて居るレベルでは有りませんが、そこそこに水棲環境への適応を示しているカメであるとは言えそうです。後ろ足の方が面積が大きく、足の馬力が幾分大きい様に見えます。ウミガメの強大なヒレ様の前肢は潮流に抗して強力に遊泳するに適応的と思えますが、一方、スッポンの様にそこそこの大きさの手足にて左右交互に漕ぎ進めるタイプは、流れに抗する大きな力は持たないものの、細かな方向転換に有利に作用する事も考えられます。 他方、外見的には、尖った鼻先−これは呼吸時のノズルとしても利用出来る−や平たい甲羅の形状は水の抵抗を減らす上で役立つのは確実でしょう。上にも触れましたが、柔軟性のある甲羅は、甲羅周辺に発生する水の乱流を抑えて滑らかな遊泳に寄与する可能性はありそうです。実際、スッポンの遊泳動画を見ると、非常に素速く且つ敏捷な方向転換を示し、恰も忍者を連想させる様な動きを示します。甲羅が円形ですので、身体の水平方向の方向転換は確かに抵抗少なくラクそうです。 以上からは、スッポンの仲間は、遊泳する為の<エンジン>は、まだ地表ロコモーションの痕跡を留めるものの、<車体>の方は改良が高度に進み、、両者を加味して、水中遊泳の1つの頂点に達しているカメであると理解出来るでしょう。 |
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