ロコモーションの話 ー カメのロコモーションL |
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2021年5月10日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。その第33回目です。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 爬虫類についてのお話の29回目です。引き続きウミガメのロコモーションについて扱います。 以下本コラム作成の為の参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/カメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Turtlehttps://ja.wikipedia.org/wiki/ウミガメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Sea_turtlehttps://ja.wikipedia.org/wiki/アカウミガメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Loggerhead_sea_turtlehttps://ja.wikipedia.org/wiki/アオウミガメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Green_sea_turtlehttps://ja.wikipedia.org/wiki/タイマイhttps://en.wikipedia.org/wiki/Hawksbill_sea_turtlehttps://ja.wikipedia.org/wiki/蓑亀https://ja.wikipedia.org/wiki/ウミガメ除去装置https://en.wikipedia.org/wiki/Turtle_excluder_device |
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ウミガメの保護活動@ 過去半世紀ほどの間で自然保護活動が高まるに連れ、野生生物を保護し、自然に対する人間活動の<浸食>を適宜抑えることは崇高な理念であるとの考え方が強まり、また実際、営利企業なども自分たちが自然保護活動をしている、自然を破壊していない、或いは炭酸ガス削減に取り組んでいるなどと宣言することが企業イメージを高めるのに欠かせないことになって来ています。 ウミガメは平和なイメージがあり、愛らしい生き物でもありますので、ヒトがこれを一段と強く保護したくなるのも十分に理解出来ることです。実際ウミガメ全種が絶滅危惧の信号が点っている動物と考えて良く、積極的に保護活動を行わなければ早晩絶滅するのは確かに思われます。 ウミガメの保護に関しては、遊泳中の成体を保護し個体の生命或いは健康状態を向上させる活動も有りますが、ウミガメの保護に最大の効果をもたらす活動は、ウミガメの最大の弱点、即ち、<海洋遊泳にカラダが高度に適応して進化的改変を受けたが地上での産卵活動を放棄しない点>を人為的に守ることになります。これには、産卵する砂浜を自然のままに保護する環境整備と維持の仕事、上陸した母ガメを保護して自然産卵をスムーズに遂行させ、ヒトや他の哺乳類から産卵された卵を守り、或いはふ化後の幼体を外敵から守る営為の各段階での保護活動、を挙げる事が出来ます。 以下、順にこれらの取り組みについて考えてみましょう。 |
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遊泳中のウミガメを助ける仕事には、例えば体表に付着した寄生生物を除去してカメの遊泳ロコモーションを正常化させる取り組みが各地で行われています。暖かで海流が穏やかな海域−これは産卵場所に接近した海域でもあります−にはウミガメの個体数が数多く観察されますが、海表面をよたよたと泳いでいるカメを見つけ、体表に余計なモノが付着している場合は捕獲して船上に引き揚げます。やや鋭利な器具を用いて体表に傷を与えぬよう注意しながらガリガリと削り落とします。ウミガメ自身には甲羅の表面を例えば岩などに擦りつけて維持する習性は無く、お互いに固着生物を取り外す知恵も残念ながらウミガメは持ち合わせません。ヘビの様に脱皮して<一皮むく>作戦を取る訳にもいかず、この様な次第で、一旦、フジツボ、スリッパ貝などに固着されて仕舞うとその増殖を抑えることが出来ません。遊泳力が低下して機敏な動きも不可能になれば、餌を採るにも不利となるばかりか、生殖にも不利となり子孫を遺せなくなる可能性もありそうです。 淡水棲のカメの甲羅の後方に緑藻が生えた状態のものを蓑亀(ミノガメ)と呼称し、長寿を象徴する縁起良いものとされます。これはマリモと近縁な緑藻が着生したものと近年判明していますが、この程度の付着物であれば遊泳にも問題無いばかりか、人間には珍重されて大切にされ、カメにとっても損なことはありませんね。因みに院長宅で飼育しているジーベンロックナガクビガメの甲羅を綺麗な緑色の藻類が覆っていますが、甲羅の尾端部分の緑藻が伸びる事はありません。またウミガメの甲羅に海藻が生える例も見た事はありませんね。 |
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漁具関連の事故としては、嘗ては米国でエビ刺し網のトロール網にウミガメが捕らわれ、脱出出来ずに大量死したことがありましたが、網の改良(ウミガメ除去装置と呼称される脱出口を設けた)でこの事故は防止出来る様になりました。残念ながら現在でも釣り具を呑み込んだり、延縄(はえなわ)漁法 longline fishing の漁具の一部を呑み込んで苦しむウミガメの事例が数多く報告されています。口から樹脂製の端を出しているところをヒトに発見されてレスキューされますが、逆流防止の為のトゲ構造を持つカメの食道の形態的特徴から、飲み下した漁網をなかなか引っ張り出す事が出来ずに非常に難儀します。釣り人が放棄した糸や針に引っ掛かり、鳥が命を失う例も多く報告されますが、実は沖の人目に付かない場所で行われる近代商業漁業も、単に魚などを捕獲するのみならず、漁獲対象としない生物を数多く無駄死にさせている事実を知り、それに対する対策を求めて行く必要があります。釣り具の後始末も出来ないアマチュア釣り人を責めるだけでは片手落ちであり、魚食する我々にも等しく責任があることを自覚すべきですね。本邦がこの分野でも先進国となることを願っています。 |
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ウミガメの甲羅が削り取られたり、四肢の一部が欠損した個体にお目に掛かる事があります。これはサメなどに囓られたものではなく、殆どは人為的な原因によるもので、船舶のスクリュウやイカリに巻き込まれたり、或いは定置網に四肢が絡まり脱落 (拘扼されて血流が遮断され脱落します) したことに拠る外傷に由来します。 米国フロリダ半島南端沖に位置する細長い隆起珊瑚礁の島であるフロリダキーズ (Florida Keys) にあるウミガメ病院では、年間に約 100頭のその様なカメが持ち込まれ適宜治療を受けています。カメが回復するまで養育され、また寄付を募ると同時に一般人に対する環境保護の啓蒙活動も行われています。他の水族館等では、四肢欠損個体に適宜人工ヒレを装着する取り組みも行われていますが、耐久性などが未知数で有り、一時しのぎの対応となる可能性もあります。館内展示に留まり、外洋への放流は躊躇されるでしょう。体表面に良性腫瘍が増殖したなどの場合は簡単に外科的除去も可能ですが、腹甲を外してまでのオペ(腹甲の中央部に骨要素が存在しませんのでここに術野を設けると良さそうですが)は非常に困難そうに見えます。この様な、ウミガメ個体へのレスキュー行為は、場当たり的であり、種としてのウミガメの維持増殖には微々たる影響しかもらたさないだろうと考えます。しかしながら、その様な取り組みを世の中に紹介することを通じて、ウミガメ保護や海洋生態系の保護の気運を高める強力な効果は確実にあるでしょう。 |
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